【上野グルメ】本州初!北海道厚真町の1日限りの羊偏愛フレンチコースを「ひつじあいす」で実食

店内にクラフトビールの自家醸造工房を併設している、東京・上野の「シノバズブルワリーひつじあいす」。世界13カ国の羊料理が楽しめる“羊偏愛”の名店が、国内外の生産者を訪ねて北海道厚真町の羊にたどり着きました。年に4頭しか生産されない希少な羊を使ったフレンチコースを1日限定で提供。初めて本州で食されることに!そのうち2品は6月末まで単品で提供中。ぜひ今だけの厚真羊のおいしさをビールとともに試してみて!

ラムチョップの骨300本を煮込み、基本の羊スープを取る

かわいらしい羊くんがお出迎えしてくれる店

上野御徒町駅や上野広小路駅から徒歩3分。夜のネオンがきらびやかな上野仲町通りは、不忍池のすぐ隣に位置し、かつては森鴎外などの文豪が足を運んだことでも知られるエリア。

そんな中に自家醸造のクラフトビールと本格的な羊料理を提供する「シノバズブルワリーひつじあいす」が存在します。ディープな街の、ディープなお店。

店に着くや目に入るのが、かわいらしい羊くん(の模型)。思わず顔をほころばせながら、全面ガラス張りのエントランスの奥をのぞき込むと、ステンレスタンクが2棟、鎮座しています。

タンクの管からは何やらコポコポと泡が立ち上り、入り口のカウンターでその光景に見入っていると、「発酵中なので泡が出てくるのですよ」と店員さんが説明してくれました。ビール工房内には麦芽を粉砕して細かくする機械まで置いてあります。

アミューズとスープには、厚真羊のために醸造した厚真町トリプレットラガーをペアリング

ビール工場見学のようなひとときを体験した後、さっそく「本州初!幻の北海道・厚真町羊 偏愛フェア」のペアリングコース(税込11,000円)を実食。アミューズは「厚真羊のベーコンひよこ豆のサブレとヨーグルトソース」。

羊のベーコンは生まれて初めて味わいましたが、羊のうまみにひよこ豆の穏やかな風味、そしてくん製の香りがとてもよく合います。

スープの「スプリングラムのコンソメ」はニュージーランド産のラムチョップの骨を300本も煮込んで作ったスープ。まろやかなやさしい味で、さっぱりと爽快な厚真町トリプレットラガーと好相性。

このスープは羊のフォン・ド・ボーのような存在で、基本のスープとしてさまざまな料理に活用しているそうです。

この店を含め、経営企業である長岡商事は羊肉をメインに提供する店を3店舗展開中で、羊肉に注力して今年で14年目。これまでラムチョップを累計182万5262本(2023年3月末時点)販売してきた、“羊偏愛”の草分け的存在です。そんな店だからこそラムチョプの骨のスープも取れるというわけですね。

ラムとマトンの間、とても希少な「ホゲット」の3部位を食べ比べ

「冷製ラムレバーのクリーム仕立て キャラメルソース林檎のチップス添え」

3品目はラムのレバーをクリームと合わせてムース仕立てにしたもの。最初の一口目は甘くてまるでココアのアイスクリームのよう。

しかし溶けていくと口の中で次第にレバーのコクが広がり、りんごのチップの酸味やキャラメルソースの香ばしい甘味も複雑にからみ合います。冷たいレバーをこんなふうにデザート感覚でいただいたのは初めてで驚きのおいしさ!

これに合わせた2杯目のビールはバーレーワイン。イギリスの酵母を使い、糖度とアルコール度数を高めに醸造した専用ラガービールを180日間熟成させたもの。

ワインという名前ですがビールで、まるで熟成ワインやウイスキーのような力強いアロマがあり、蜂蜜やカラメルのような重厚感のある後味。これが冷菜のレバーの深いコクとまさにピッタリ。

単品で提供中の「幻の厚真羊・ホゲットの食べ比べ3種のロースト(ロース・ウデ・モモ)」2,750円

お品書では、次はメイン料理のはずですが、突如、隠し皿のホゲットの食べ比べが提供されるというサプライズも。

ラムは一般的に生後12カ月未満の仔(こ)羊、マトンは生後24カ月以上の羊とされますが、その真ん中の22カ月間育った「ホゲット」と呼ばれる珍しい月齢の厚真羊のロースト。今回はたまたま希少なホゲットが厚真町から届いたのだそう。

前川社長がおすすめする順番で口に運ぶと、まずロースはやわらかく、ウデは牛タンにも似たコリコリした食感で、最後のモモは弾力があってうまみがにじみ出てきます。

ラムよりもうまみが強いのがホゲット。羊の脂がこんなにも融点が低く、クセがないとは驚き。言われなければ牛のローストと間違いそうな繊細な味です。山田さんの羊肉はマトンでさえほとんど羊の臭みがないのだそう。

左が羊生産者の山田忠男さん、右が前川弘美社長

前川社長の話によると、厚真町の羊生産者、山田忠男さんは、羊の飼料にカボチャや米ぬか、古米などを使って、ストレスがないように育てているのだそう。羊1頭ずつ名前を付けて、まるで我が子のように愛情をたっぷりかけて育てているとか。

通常は地元でのみ消費されますが、何度も前川社長が現地に足を運び、今回初めて本州の飲食店で提供できることになったようです。先月、珍しい三つ子の赤ちゃんも生まれたばかりで、今後は生産量が少しずつ増えてくるそう。

「匂いが苦手で羊肉はあまり好きではない」という人にこそぜひ試していただきたい、上品な羊肉のロースト。肉に添えてある緑色のチャツネと、同店で通称「しろ」と呼ばれる玉ねぎの大根おろしビネガーも美味。これら羊肉専用の箸休め調味料アイテムは普段もお店で提供しています。

大胆な発想で繊細な技術。松本シェフのパイ包焼に称賛の声が続々

メイン料理のひとつ「厚真町羊のパイ包焼フォアグラ入り エシャロットソース、アスパラガス のソテー」

客席で歓声が上がったのは松本竜シェフのスペシャリテ。パイ生地の下にほうれん草の層、その下には厚真羊の肩ロース肉のパテ、そしてフォアグラ、厚真羊のモモ肉のパテ、キノコのデュクセルが層状に美しく包み込まれています。

北海道産の紫色のジャガイモ、シャドークィーンのソースや、同じく北海道産のアスパラガスを基本の羊スープでゆでたものが盛り付けられて、まるで芸術作品のような美しさ。

ナイフを入れるのがもったいないくらい繊細に輝くパイ包焼は、香ばしくて濃厚なうまみが広がり、本格フレンチの繊細かつ大胆な美食の世界に一気にいざなってくれます。肉もソースも羊だけを使った新しい世界は、肉のパイ包焼なのに重すぎず、羊の独特な臭みはどこにも感じられません。

フォアグラも羊肉もパイ生地も、後味がほんのり甘いので、他のどの肉よりも羊肉こそがパイ包焼に合う!と思えてしまう一体感。

左から、店でビアーズパパとも呼ばれている醸造家 上松貴昭氏、前川弘美社長、シェフの松本竜氏

そしてその甘美な後味を赤ワインの熟した果実味がほどよい酸味で包み込みます。ビールの後は赤ワイン。オーストラリアのシラーズ。自家醸造の奥深いビールの世界と、ワインと楽しむフレンチの世界を行ったり来たりするペアリングが楽しく、羊にはビールもワインも合うことが改めて分かります。

ちなみに千葉県出身の松本竜シェフ(26歳)はフランスのオーベルジュや都内の「ル・プティトノー」などで勤務後、「フレンチをもっとカジュアルに楽しんでほしい」と同社に入社。

もともとフレンチの世界では、羊は定番の食材でなじみがあり、フレンチの技術を生かしながら羊肉をさらに追求したいと、現在は同社の店で腕を奮っておられます。

コーヒー豆を使った香り豊かな黒ビールとスパイシーな羊のうまみ

単品で提供中の「10種のスパイスで煮込んだ厚真町ホゲットの煮込み クスクス添え」税込2,640円

次は厚真羊のロース肉とウデ肉を表面だけ焼いて、約6時間も基本の羊スープなどで煮込んだ一品。オシャレなクスクスと一緒にお食事感覚でいただきます。ジンジャーパウダーやクローブ、フェンネルパウダーなど10種のスパイスを使用しており、羊肉のうまみに奥深い香味をプラス。

スープカレーのようにクスクスをスープに浸しながら、時折、ハリッサの辛みもアクセントに加えながら味わうと、より羊のうまみが際立ちます。先ほどのロースト3種食べ比べで味わったロースとウデが、今度は繊維質の部分までほろほろとやわらかくなっていて感動的。

「新月覚醒」というユニークな名前の自家製黒ビールともとても相性が抜群。ブラジル産のコーヒー豆を原料に加えているので、コーヒーと香ばしい麦のアロマがたっぷりと広がります。しかし後味は意外にドライでさっぱり。

胃袋がそれなりに膨らんできましたが、煮込み料理もあっという間に平らげてしまいました。まさに口福の瞬間。

「ロックフォールチーズのブランマンジェ」 実はこれが一番羊の香りがしました

最後のデザートでは高級な羊のロックフォールチーズを使用。最初に味わった基本の羊スープから、そのスープを活用した肉料理の数々、デザートの羊のチーズまで、全て羊だけ!のフレンチコース。

世界各国の羊料理を提供している「ひつじあいす」では、通年でニュージーランド産のラム肉を使用していますが、貴重な国産の羊が仕入れられる時だけ、今回のようなディナーイベントを開催したり、期間限定のメニューを提供したりしているようです。

同社では今月、ニュージーランドの南島の産地にも視察に行かれたとのこと。コースをいただきながら北海道厚真町とニュージーランドの生産者たちの話もうかがえました。

ニュージーランドの羊生産者(左から2番目)を視察した時の様子

「南島のカンタベリーでは厚真町の飼育法とはまた違って、広大な土地にケールやカブの一種のような羊専用の野菜や、5種類くらいの草を育てるところから取り組んでいます。これらのバランスをよく羊たちに食べてもらいながら放牧して育てています。人間の子供と同じように、(羊の)子育てには正解がないのですね。その土地の気候の特徴を生かして、入手できる飼料を工夫して、生産者がそれぞれにこだわっています。それが面白いです」(前川社長)。

ただならぬ羊の偏愛ぶりに圧倒されながらも、いつの間にか自分も羊の沼にハマっているのでした。

コース料理に登場した「幻の厚真羊ホゲットの食べ比べ3種のロースト(ロース・ウデ・モモ)」2,750円と「10種のスパイスで煮込んだ厚真町ホゲットの煮込み クスクス添え」税込2,640円は、6月末くらいまで単品で注文できます(厚真羊がなくなり次第、終了)。大変貴重な北海道の厚真羊を味わえるのは今だけ。さっそく出かけてみてくださいね。

最後に、「いただきます!」という言葉は、料理を作ってくれた人に対する言葉なのはもちろん、生産者やそれを取り囲む自然環境に対して、「大切に育ててくれた命をいただきます!」という尊いリスペクトと感謝を表した言葉でもある…。そんなことも実感できた学びの多い貴重なイベントでした。

松本シェフの特別ディナーがあれば、またぜひ参加したいと思いました。

コース料理の全品

「シノバズブルワリーひつじあいす」
所在地:東京都台東区上野2-10-7
アクセス:JR上野駅・御徒町駅・東京メトロ湯島駅より徒歩3分
電話番号:03-3836-1901
営業時間:[日~木/土・祝]12:00~23:00(L.O 22:30)[金]17:00~23:00(L.O 22:30)
規模:1階26席/2階46席/計72席(2階は半個室と完全個室)