俳優 高杉真宙の繊細な演技と映像美!静かな嘘こそが家族をつなぐ映画『架空の犬と嘘をつく猫』

家族のことを思い浮かべると、少しだけ胸がざわつく。嫌いとかではないけれど、距離の取り方が難しい――そんな感覚を覚えたことがある人は少なくないでしょう。2026年1月9日から全国公開中の映画『架空の犬と嘘をつく猫』は、家族の中にある「嘘」と「優しさ」を、静かに誠実に描いた作品。派手さや大粒の涙はありませんが、観終わった後、心にはやさしい余韻が‥。お正月に帰省して家族について考えてしまった人にもぜひ!

「タリン•ブラックナイト映画祭」で撮影賞を受賞し、話題に!

映画『架空の犬と嘘をつく猫』のポスター

映画『架空の犬と嘘をつく猫』が描くのは、ある家族が長い年月をともに過ごしてきた日常。そこにあるのは、誰かをあざむくための嘘ではなく、“不都合な真実”から目をそらすことで成り立ってきた静かな時間です。原作は『川のほとりに立つ者は』で本屋大賞にノミネートされた寺地はるなの同名小説。

家族の中で起きた出来事をきっかけに、それぞれが「言わないほうがいい」と判断したこと。その選択は小さなものでしたが、やがて日常の一部となり、家族の関係を形づくっていきます。

この繊細な距離感を描いたのは森ガキ侑大監督。前作『愛に乱暴』でも、人の心の揺れや関係性の歪(ゆが)みを丁寧に描き出し、高い評価を受けました。本作でもその作風は一貫しており、感情を過度に説明することはなく、沈黙や“間”を通して登場人物の内面を巧みに浮かび上がらせています。

鑑賞前は家族がバラバラに見えたこの画が、鑑賞後ではまったく別の印象に見えてくるから不思議

さらに脚本を手がけたのは『浅田家!』で日本アカデミー賞脚本賞を受賞した菅野友恵さん。登場人物それぞれの立場や感情が偏らないよう配慮された脚本は、観る側に「誰か一人を悪者にできない」感覚をもたらします。

だからこそ、嘘を善悪で単純に切り分けることはなく、その背景にある思いやりや不器用さまで深く伝わってくるのです。

家族だからこそ言えなかったこと。
家族だからこそ、あえて触れなかった沈黙。

30年の家族の積み重ねが、現実の私たちのやっかいな暮らしとも自然にリンクしながら作品に引き込まれていきます。

2025年冬に本作は世界15大映画祭のひとつ「タリン・ブラックナイト映画祭」にて撮影賞を受賞しました。カメラマンは山崎裕さん。長年に渡って日本映画界を見つめ続けてきた彼の【日本らしく落ち着いていて、詩的で美しい映像】が世界的にも高く評価されている注目作品です。

「ザ・ロイヤルファミリー」の高杉真宙さん、今度は静かで繊細

こんなに繊細で苦しい表情の高杉さんを見るのは初めてかも!?

主人公・羽猫山吹(はねこ・やまぶき)を演じるのは、映画『盤上の向日葵』、テレビドラマ「ザ・ロイヤルファミリー」など話題作への出演が続いている高杉真宙さん。これまで幅広い役柄を演じてきた高杉さんですが、本作では感情を内に秘めた青年像を、抑制の効いた演技で表現しています。

山吹(高杉さん)は、家族のために動きながらも、自分の気持ちは後回しにしてきた人物。感情を強く主張することはなく、沈黙や迷いの時間が多い役どころですが、その分、内面の揺れが丁寧に伝わってきます。

山吹(高杉さん)の優しさがあふれ出すシーンは印象深い

高杉さんの魅力は、語らないことで感情を表現できるところ。視線の動きや、わずかな表情の変化、言葉を発するまでの“間”。そうした細やかな演技が、主人公の心情を自然に浮かび上がらせています。

2025年末まで放送されていたTBS系日曜劇場「ザ・ロイヤルファミリー」では、GI勝利を目指す気の強い金髪の若手騎手役だったのに、同じ俳優とは思えないくらい静かで繊細な役どころ。そのギャップにまず驚くでしょう。

高杉真宙ファンはもちろん、これまで高杉さんの作品に触れてこなかった人にとっても、俳優としての彼の確かな実力が印象に残るはず。

さまざまな女性像、全員に共感。周りにもこういう人がいるかも

恋に戸惑う男女の姿も共感できて印象的

本作に登場する女性たちの描かれ方も印象的。弟の死により現実を見なくなった母親(安藤裕子さん)のはかない表情、山吹(高杉さん)と正反対の生き方をしている伊藤万理華さん、深川麻衣さんが演じる人物像。

それぞれが異なる価値観を持ち、「こうあるべき」という枠に当てはめられていません。「こういう女性は確かに、現実にも存在するよね」と感じていると、物語のリアリティが次第に増してきます。

誰かに寄り添おうとする人。
距離を取ることで自分を守ろうとする人。
感情を整理しきれないまま、立ち止まる人。

ヒコロヒーさんが登場する時間は短いが存在感がある

どの姿も一方的に肯定も否定もされず、ただ静かに描かれます。特に山吹(高杉さん)の姉・紅役、向里祐香さんの演技には、「自分も映画の中のキャストだったら、姉の紅と同じ行動をとったかも‥」と感じながらとても見入ってしまいました。そしてヒコロヒーさんのぼくとつな演技も味があります。

祖母の葬式の帰りに、バスの中で、あるパプニングが起きますが、そのシーンの画像が映画を見る前と後では、別のものに見えてきます。登場人物それぞれの心情に共感できると、その1枚の画がとても尊く、家族には正解や不正解はなく、ただ存在するだけでとても愛おしいものなのだなと思えてきます。

全国で公開中の映画『架空の犬と嘘をつく猫』

『架空の犬と嘘をつく猫』は、明確な答えを示す映画ではありません。監督の演出もまた、感情を過剰にあおることはなく、音楽やカメラワークは控えめで、沈黙や視線、会話の間に漂う小さな違和感が、物語を静かに前へ進めていきます。

その代わり、家族との関係や、自分自身が抱えてきた小さな嘘について、考える時間を与えてくれます。

観終わったあと、誰かの顔がふと浮かんだり、少しだけ連絡を取りたくなったりする。そんな静かな余韻こそが、この映画の魅力。派手さはありませんが、確実に心に残る一本。日常の中で立ち止まりたくなったときに、ぜひ劇場を訪れてみてください。

全ての画像提供:©2025 映画「架空の犬と嘘をつく猫」製作委員会、配給:ポニーキャニオン