がんばりすぎる女性へ。心療内科×婦人科医・横倉先生に聞いた“自分を守るサイン”

現代女性を悩ませる生理不順やPMS、原因不明のメンタル不調…実は、ストレスによる「脳疲労」が原因。必要なのは、薬で抑える対処療法ではなく、五感で「快」を満たし、脳に余裕を取り戻すアプローチ。心療内科と婦人科の境界線を取り払い、予防医療を実践すると共に多くの女性たちの心身の不調に寄り添ってきた横倉クリニック院長・横倉恒雄先生に “自分を守るためのサイン”と“生き方の美学”を伺いました。

“病気”ではなく“ひと”を見る医療のあり方

現代の医療は、数値の異常や病名を探し、見つかったものに対して薬を処方する「否定の医療」や「対症療法」に偏りがちです。しかし、横倉先生の診察室アプローチは全く異なります。

横倉先生は「一般的に医療は人の病気を診ていますが、私は病気を持っている人を診ています。」と語ります。

頭痛がするから鎮痛剤、眠れないから睡眠導入剤…といった対症療法ではなく、その人の生活背景や人間関係、心理状態まで含めてトータルに捉える。この”人をまるごと包み込む視点”こそが、根本治療には不可欠なのです。

特に女性の不調は、心と体が密接に連動しているため、婦人科だけ、心療内科だけでは本質にたどり着けないことも多いのだそう。現れた症状だけにアプローチするのではなく、ライフスタイルや心の背景まで含めてトータルに捉えることが、健やかな美しさへの第一歩につながります。

生理不順への安易なピル処方への注意点

特に出産やキャリアの選択肢が多い20代~40代の女性にとって、生理不順やPMS(月経前症候群)は身近な悩み。婦人科に駆け込むと、当然のように低用量ピルを勧められるケースが少なくありません。しかし、横倉先生はここに強い警鐘を鳴らします「ピルは根本的な原因の解決にはなっていない」という視点も大切だと言います。

「生理不順は、卵巣の働きが悪いから起こるのです。ピルを出すことは排卵を止めることであり、人工的に周期を整える薬なので自然な排卵はありません。結果的に卵巣本来のポテンシャルを眠らせてしまうリスクもあります。」

一時的にホルモンを月経周期をコントロールして出血を起こさせても、それは“生理が順調に来ている”とは言えません。だからこそ、排卵が起きにくくなっている理由や、卵巣の働きそのものに目を向けることが、自分の体を守るうえで欠かせないと先生は考えています。

脳の防衛本能が引き起こす、切実なSOS

では、なぜ卵巣の働きが低下してしまうのでしょうか。卵巣そのものに原因がある場合もありますが、多くの場合、その背景には、ストレスによる“脳の指令の乱れ”が潜んでいるそう。

仕事や家庭で過度なストレスがかかると、脳は「今は妊娠すべきではない」と生命の危機を察知し、防衛反応としてあえて生理を止めてしまっていることも考えられます。

つまり、不調は体があなたに「これ以上頑張らないで!」と送っている切実なSOSサイン。脳疲労により、ホルモンの司令塔である視床下部の働きが鈍ってしまうこともあり、生理不順以外にも、無排・不妊症・生理痛の悪化・更年期症状の重さなど、さまざまな不調が連鎖しておこってきます。

そのため、横倉先生のクリニックでは、婦人科と心療内科を分断せず、心理テストを含む統合的なアセスメント(評価)を実施。ホルモン値だけでは拾いきれない「脳の負担」を見つめ、一人ひとりに寄り添った個別プランへと落とし込んでいます。数値だけでは測れない脳の負担をリセットすることが、何よりも優先されるべき治療なのです。

否定しない「肯定の医療」-毎日の小さな「快」が脳の余裕を作る

イライラも涙も、すべて愛おしいあなたの感情

横倉先生の医療の根幹にあるのは、「肯定から入る医療」です。世間の基準や「こうあるべき」に縛られ、感情を押し殺してしまう女性たちに対し、先生は優しい眼差しを向けます。

「感情が激しくても、涙しても、イライラしても、“感情があること”自体が素晴らしいのです。」

病名をつけて安心するのではなく、患者のどんな感情も「あること」として全肯定し、伴走する。この安心感こそが、脳の緊張を緩める最初のスイッチになります。

ダメな自分を責める必要はまったくありません。まずは自分の状態を丸ごと肯定し、自律神経のオーバーヒートを緩めてあげましょう。

大脳新皮質に「余裕」を取り戻すメリット

私たちの脳の表面を覆う「大脳新皮質」は、ストレスや感情をコントロールする理性の司令塔です。横倉先生によれば、心身の健やかさを保つメリットは、この大脳新皮質に「余裕」を作れるかどうかにかかっています。

「同じストレスや刺激を受けても、大脳新皮質に余裕があるとそれは小さく感じられる。逆に余裕がないと、必要以上に大きく感じてしまい、イライラや落ち込みに傾きやすくなります。」

この余裕を生み出す最短ルートこそが、五感を通じて脳に主観的な「快」を与えてあげること。高級なホテルスパや一大決心の海外旅行といった「非日常のご褒美」である必要はありません。もっと日常の、最小単位の心地よさでいいのです。

暮らしの中で「快」をプロデュースする訓練

横倉先生直筆(キャレモジ)「目の前の日常を大切にしていますか?」の意

「私は患者さんに『朝、顔を洗って気持ちいいですか?』と尋ねます。『気持ちいい』と答えられれば、そこにはもう『快』がある。生活の中から小さな快を探す訓練が重要なのです。」

お気に入りのスキンケアの滑らかなテクスチャー、朝の光を浴びて飲む淹れたてのコーヒー、肌触りの良いリネンのシーツ。そんな日常の小さな「快」を自覚して積み重ねることで、脳に美しい余裕が生まれ、ストレスに対するしなやかなレジリエンス(回復力)が育まれていきます。先生のクリニックの空間設計自体も、患者の動線や目線に配慮し、角のない家具を配するなど、五感に「快」を与える「粋」なこだわりが貫かれています。

五感をフルに使って整う粋なリセット術

横倉先生のクリニックが他と一線を画すユニークな点は、ストレスケアのプログラムとして「茶道」を実践していることです。

茶室に掛けられた一幅の軸、四季を告げる素朴な茶花(ちゃばな)。そこにあるしつらえは、「亭主は客を美しく生かし、客は亭主の心を受け止める」という、互いを生かし合う究極の関係性のデザインです。

茶道家でもある横倉先生は、自らしたためた書や季節の茶花で患者さんを迎え、その空間ごと“整える”ことで心をほぐしていきます。

こうした生き方の美学を五感で体験する時間が、人間関係や日々の役割に疲れた脳に静かな余裕を取り戻し、自分自身をやさしく調整していく自己回復力を引き出してくれるのです。自宅でもこのエッセンスは取り入れられます。季節の花を一輪飾る、お茶を丁寧に淹れて静かに味わう。そんな小さな所作だけでも、茶室の精神がそっと息づき、日常の中にふっと心が緩む“余裕”が生まれていきます。

我慢しない「快食療法」のススメ

食に対しても、横倉先生は学会発表も行っている「快食療法」を提唱しています。そのルールはきわめてシンプル。「自分が本当に食べたいものを、食べたい時に、気持ちよく食べる」というものです。

多くの女性が「太るから」「身体に悪いから」とカロリーや栄養価の計算に縛られ、食べる喜びを制限しています。しかし、ストレスで甘いものが無性に欲しくなるのは、脳のエネルギー源であるブドウ糖を求めている自然な身体の防衛反応。そんな時は罪悪感を抱く必要はありません。精製された白砂糖ではなく、ビタミンやミネラルが豊富に含まれた黒糖をひとくち、丁寧に味わって脳を満たしてあげればいいのです。

「ながら食べ」を卒業し、五感で命をいただく

さらに先生は、現代人に蔓延する「ながら食べ」に鋭く警鐘を鳴らします。

食事とは、見る(視覚)、嗅ぐ(嗅覚)、触る(触覚)、味わう(味覚)、咀嚼音を聞く(聴覚)という、五感のすべてを総動員する贅沢なアクト(行為)。スマホを見ずに五感をフル活用し、目の前の食卓と丁寧に向き合うことで、脳は深い満足感を獲得します。しっかり味わって食べれば、脳に“快”が届き、とても贅沢な日常になります。

こうした日常の何気ない振る舞いに美意識を持つ「粋(いき)」な生き方こそが、サプリメントや薬に頼らない最高のストレスケア(ベネフィット)になるのです。

不快を手放す勇気─「今この瞬間」を最高に満足し生きる覚悟

心身の不調を根本からリセットし、自分を真にアップデートするために最も重要なこと。それは、ストレスの原因となっている不快な環境から、物理的・心理的「離れる」勇気を持つことです。

「不快な習慣や環境はすべてやめるべきです。例えば会社や業務が不快だとしたら、休むしかありません。」ときっぱり。

特に、責任あるポストを任される女性が直面しやすい50歳前後の「ミッドライフクライシス(人生の転換期の葛藤や不安)」。この段階に陥って脳疲労がピークに達している時、「おしゃれをして出かけましょう」「散歩で気分転換を」といった一般的なアドバイスは逆効果です。なぜなら、心にそれを受け入れる「余裕」が1ミリも残っていないからです。

まずはクリニックで診断書を活用するなどして、休職し、ストレス源から物理的に完全に離れること。それこそが、回復への絶対的な第一歩となります。

自分を最高にかわいがり、今この瞬間に恋をする

頑張りすぎてしまうすべての現代女性へ、横倉先生は人生を輝かせる究極のメッセージを贈ってくれました。

「まず自分を徹底的にかわいがって、大切にしてください。それは、好きな洋服を着て、好きなものを食べて、好きな人と制限なく会話をすることです。」

そして、その自愛の精神をさらに深めるのが「1秒後に死んでもいいように、今を満足して生きる」という覚悟です。

いつ人生の終わりが訪れても後悔しないよう、不快な我慢をすべて手放し、一瞬一瞬を自分の「快」と「好き」で満たして生きる。その凛とした積極的な生き方の美学(ウェルビーイング)こそが、あなたの内なる自己回復力を目覚めさせ、これからの人生をどこまでも美しく、エネルギッシュにアップデートしていく最高のエネルギーになるはずです。


今回のインタビューを通じて、横倉先生が私たちに教えてくれたのは、単なる不調の改善法ではなく、「自分の人生の手綱を、もう一度自分の手に取り戻す」という、美しくも力強い生き方のスタンスでした。

私たちは日頃、誰かのため、仕事のためと、ついつい自分の心や体のSOSを後回しにしてしまいがちです。けれど、今日この瞬間から、そんな「我慢のループ」からは卒業しませんか?

スマホを見ずに目の前のごちそうを味わう、お気に入りの香りに深く癒される―そんな日常の小さな「快」に五感を開くことから、私たちが本来持つ自己回復力は目覚め始めます。

1秒先も後悔しないほど、今この瞬間を自分の「好き」で満たしていくこと。 その粋な自愛の積み重ねこそが、疲れた脳をそっと整え、忙しい日々の中でも揺るがない、あなただけの洗練された美しい健やかさと輝きを育んでくれます。

お話を伺ったのは…

横倉 恒雄 (ヨコクラ ツネオ) 医師
医学博士。婦人科医、心療内科医。茶道家・表千家准教授。横倉クリニック院長。慶應義塾大学医学部産婦人科入局。東京都済生会中央病院産婦人科にて日本初の「健康外来」を開設。故・日野原重明先生に師事。1998年に『横倉クリニック』開院(東京「田町駅」三田口(西口)から徒歩7分)。