【山梨ワイン旅】国の登録有形文化財にも認定!伝統的な「石蔵発酵槽」で醸造するルミエール

近年人気が高まっている日本ワイン。国産ブドウを100%使って国内で製造されたワインは、各地の風土(テロワール)が感じられるものばかりでその個性が魅力。今回は山梨県笛吹市にある有名ワイナリー「ルミエール」の見学ツアーに参加しました。ブドウ畑に囲まれたワイナリーの地下には、国の登録有形文化財にも認定されている巨大な「石蔵発酵槽」があり、西洋と東洋が融合したユニークなワイン造りが繰り広げられていました。

アメリカ大統領来日のお食事で採用された「シャトールミエール」

ルミエールのイメージ1新宿からJR中央本線、特急「かいじ」で約1時間30分。「勝沼ぶどう郷」駅からタクシーで約10分の場所にある

タクシーでルミエールワイナリーに向かうにつれ、辺りにはブドウ畑が増えていき、ブドウの葉が緑の雲のように連なって見えてきます。

約4ヘクタールもの自社のブドウ畑ほか、ルミエールワイナリーの契約農家さんが愛情を込めてブドウを手入れして栽培。ブドウ畑の遠く先を望めば真っ青な南アルプスが眺められ、緑と青のコントラストが美しい景観が広がります。

ルミエールワイナリーには醸造所の他にワインショップや地下ワインセラー、そしてレストラン「ゼルコバ」が併設されています。

1885年の創業時は、社名は降矢醸造所でしたが、1992年にルミエールに変更、1996年には「シャトールミエール」がアメリカ大統領の来日の際、午餐会(ごさんかい)に採用され、現在もフラッグシップ・ワインとして人気を誇ります。

ルミエールのイメージ2扇状の傾斜地にあるワイナリー。ブドウ畑の奥に見えるのが南アルプス 画像提供:ルミエール

さっそくブドウ畑から案内いただきました。ショップ前のメルローの木は一文字型に仕立てられていて、ブドウが一直線に並ぶため、収穫がしやすい栽培法。一方、隣に広がる日本固有のブドウ品種、甲州はX字型仕立てに木を剪定していました。それらの木には少しだけ縦長で卵形の育成中のブドウの実が緑色に輝いています。

あえて雑草は生やしたまま。木のたくましい生命力を呼び覚ます

ルミエールのイメージ3穏やかな味とは裏腹に、樹勢力が強くたくましい日本の固有の品種、甲州

ガイドさんいわく、「甲州は樹勢力が非常に強い品種で、メルローのように整然と一文字型になるように枝をコントロールするのが難しいのです。生命力があふれる品種で、縦横無尽に力強く枝を伸ばしていきます。なのでX字型仕立てなのです」。

甲州の白ワインはシャルドネなどの欧州品種に比べて穏やかな風味なので、性格もおとなしい木なのかと思っていたら意外に真逆。生命力があふれる、個性が豊かなたくましい品種であることを知り、一層、甲州に愛着がわいてきました。

ルミエールのイメージ4
初めて見た「カーテン仕立て」。北米原産の珍しい品種、ミルズ

少しだけ歩くと、スペインなどで栽培されるテンプラニーリョの木で、こちらは垣根仕立て。その隣には遅め(10月中頃)に収穫するカベルネ・ソーヴィニヨンが同じく垣根仕立てで広がっています。

驚いたのは北米原産の珍しい品種、ミルズ。昔から山梨県で多く栽培されていた品種のようですが、栽培が難しいなどの理由でその量は徐々に減り、現在は山梨県内でもほんのわずかしか栽培されていない大変に希少な品種とか。

甲州とは違ってまん丸のブドウの実が付く木なのですが、こちらは枝を上から下まで、まるでしだれ柳のように垂れさせる「カーテン仕立て」という珍しい栽培法で育てられていました。品種の特性に応じて、栽培法をいろいろ変えながら育てているのです。

ルミエールではこれらの畑で「不耕起草生栽培」(ふこうきそうせいさいばい)を実践しています。これはあえて雑草を抜いたりして土を耕したりしない栽培法。雑草などとともに育つことで、よりそれらに負けまいとたくましく育つので、結果的に生命力の強い木に育ち、良いブドウが実り、おいしいワインになるというわけです。

ブドウが浮き沈みする石造りの蔵。伝統的な醸造法がおもしろい!

ルミエールのイメージ5120年以上の歴史がある石蔵発酵槽。これが10基もある

次にご案内いただいたのは1901年に作られた石蔵発酵槽。この石蔵は花崗(かこう)岩で作られているため耐酸性に優れ、大量の仕込み用のタンクとして建設されたもの。日本遺産、および国の登録有形文化財にも認定されています。

100年以上たって、ステンレスタンクが登場した現在もなお、10基あるうちの1基は年に1度使われ、その伝統は脈々と受け継がれています。毎年9月になるとお客様を集めてこの石蔵発酵槽を使った仕込み体験イベントが開催され、1年後にそのワインが自分の元に届くという思い出の深い体験ができます。

申込開始とともに毎年予約が殺到する人気イベント。詳細はそろそろ公開されます。ワイナリーのホームページでチェックしてくださいね。

ルミエールのイメージ6竹製のすのことなどを使った伝統的な醸造方法でワインが造られる

ワイナリーのある盆地の傾斜地はブドウ栽培に適していると同時に、地下は温度が一定に保たれる涼しい場所なので、セラーやタンクを作るのにも適している場所。ルミエールでは石蔵発酵槽を使って伝統的な醸造方法でワイン造りをしてきました。

石蔵発酵槽にはブドウの果もろみ(実や皮、茎、果汁など)だけではなく、竹製のすのこを敷くというのがユニーク。発酵が進むにつれて、すのこの中で自然に対流が起き、ブドウが上面に上がってきたり、沈んでいったり…を繰り返します。そうしているうちに、自然に果汁がかくはんされ、さらに発酵が進むのです。

ヨーロッパ式の発酵槽に東洋にしかない竹のすのこを用いた独自の醸造法。明治時代の人々がよくこのような方法を編み出したものだと、先人の知恵にはただ感心するばかり。

発酵が終わるとワインはステンレスタンクに移されて約半年間熟成。こうして造られたGI山梨の「石蔵和飲」税込2,200円は、一般的なステンレスタンクとは違う深みのある味わい。

“蔵付き酵母”ならぬ“石蔵付き酵母”の働きもあり、複雑味のある味わいに仕上がっています。イチゴやチェリーなどのチャーミングな香り、やわらかなタンニン、温かさを感じる親しみやすい味でした。

伏流水が天然クーラーの役割を果たす。瓶内2次発酵製法にも本腰

ルミエールのイメージ7石蔵の外側は貯蔵庫になっている。地下は伏流水の影響でいつも涼しい

日本酒にとって伏流水(河川敷や旧河道の下層にある砂れき層を流れる地下水)は原材料の一つとしてとても大切な存在ですが、ワイン造りでもまた、伏流水は欠かせない存在であることを今回、教えていただきました。

ルミエールが存在する山梨県笛吹市一帯は、地下に伏流水が流れており、年間を通して一定の水温なので、地下セラーでは天然の冷却効果を発揮。日本で有数の盆地として知られる山梨県は、日中の気温が40度近くまで上がることも多々あるため、近年では空調も併用しながら、ひんやりとした気温を維持しています。

フレンチオーク樽(だる)などが整列している貯蔵庫では、樽の中でワインが時の流れとともに静かに熟(こな)れていきます。そしてその深い眠りから覚めて空気と再び触れ合った時、私たちの前に輝きながら現れます。ルミエールとはフランス語でまさに「光」の意味。

ルミエールのイメージ8施設内のワインショップには試飲コーナーもある。常時約15種類も試飲できる

ルミエールといえばスパークリングワイン。2008年からスパークリングの製造に着手し、シャンパーニュと同じ瓶内2次発酵製法のものも含め、種類を豊富に取りそろえています。

製造現場では瓶内2次発酵製法の「動瓶」(逆さまにした瓶を少しずつ何度も動かす「オリ下げ」の作業)に欠かせない「ピュピトル」(という専用器具)も発見しました。

しかもいつもワイナリー見学で見かける木製のピュピトルの他に、自動で「動瓶」が可能な「ジャイロ・パレット」という最新の機械もあるそうです。タイマーをセットしておけば自動で瓶が回り、オリ下げできるという画期的なもの。

「瓶内2次発酵の「動瓶」は人手だけでやっていたら気の遠くなるような作業です。最新機器を導入することで生産性を高め、スパークリングの種類や製造本数を増やせました。2011年からは海外輸出もスタートしました」とガイドさん。

ルミエールのイメージ9スパークリングから石蔵造りのワインまで、ショップで購入できる

おすすめワインをピックアップ。上写真の右から順番に、北米原産の珍しい品種ミルズの白ワイン「プレステージクラス ミルズ 2022」税込3,080円。

同じく2番目が甲州のオレンジ辛口の瓶内2次発酵ワイン「スパークリング オランジェ」2,860円、3番目がフラッグシップの「シャトールミエール 2015年 赤」税込4,400円。カシス、ブラックベリーの香りで、力強く奥深い味わいで印象的。

そして4番目がワイナリーショップ限定のスパークリング「スパークリング バリック甲州&シャルドネ」4,950円。5番目はマンガ「神の雫(しずく)」にも登場したシリーズ「光 甲州2020」税込3,850円で、かりんや洋梨の香りで、樽熟成20カ月のほどよい樽(たる)香と芳醇(ほうじゅん)な果実味。最後は前述の「石蔵和飲2021」。

ルミエールのイメージ10生まれて初めて味わったミルズのワイン。癒やしのアロマで美しく輝く

さっそく珍しい「プレステージクラス ミルズ 2022」を味わってみました。ミルズは黒ブドウですが白ワインに仕上げた、いわゆる「ブラン・ド・ノワール」。ライチやバラなどのアロマティックな香りにとても癒やされます。なめらかな甘みで軽快な白ワインなので、桃とモッツァレラチーズの前菜や鶏肉のグリルにも合いました。

見学ツアーは要予約。ぜひ夏の山梨ワイン旅で立ち寄ってみてくださいね。

ルミエールワイナリー
山梨県笛吹市一宮町南野呂624
アクセス:車…勝沼インターをおりてから5分/電車…JR塩山・山梨市駅からタクシーで15分/勝沼ぶどう郷駅から10分
電話:0553-47-0207(見学ツアーは要予約、レストラン予約は0553-47-4624)